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論文:熱帯林の植林化による地上と地下の食物網とエネルギー流の変化

Potapov et al. (2024).  Rainforest transformation reallocates energy from green to brown food webs.  Nature 627  https://doi.org/10.1038/s41586-024-07083-y インドネシアの熱帯林でのOil parmやラバーの植林が地上部と地下部の食物網とエネルギーフラックスをどのように変えるかを調べた論文。 調査地はスマトラのジャンビ。自分がコツメカワウソを調査しているスマトラのパダンから割と近い。アシスタントがジャンビ出身だった。 土地利用による多様性ー機能への影響というテーマ以上に食物網の図に圧倒される。 概要 バイオマスは、地下部は植林の方が熱帯林よりも大きかった。 エネルギーフラックス(出現種の体サイズと代謝率から計算)は、地下部では熱帯林と植林で変わらず、地上部は植林の方が小さくなっていた。 →外来のミミズが植林で多かった。熱帯林で多様な土壌動物が果たすエネルギーフラックスの役割を補償。 食物網の複雑さ(相互作用のリンク数)は植林で低い 炭素循環は植林でターンオーバーが早い→ミミズによる消費? あまりよく理解できてないが、外来ミミズが優占することで、食物網のエネルギー流自体は見かけ上変わらない。 しかし、ミミズによって植林では炭素循環速度が上がり(Figure 3e)、炭素フラックスが促進されるのでは?ということらしい。 Fig. 2を見ると、隔離されている土壌炭素がミミズにより同化されるということだろうか? データ量がエグい。32プロット(4タイプ✖️8サイト)での鳥センサス、林冠フォギング、ツルグレン。 結果の再現性の確認のために、本調査の4年後に同じ調査を実施したらしい。。。 出現データと形質情報をRのパッケージ()で計算すると食物網がFigure1のように再現できるらしい。

どうして九州には熊がいないのだろう?(子育てと文化ネットワークさがに乗った記事)

せっかく頑張って書いたのに(以下略) クマはどこにいるのか? クマ(クマ科 )は8種類いて、世界の広い範囲に暮らしています。広い範囲で見られるからといってたくさんいるわけではなく、ヒグマとアメリカクロクマ以外のクマ(パンダやホッキョクグマ)は国際自然保護連合 の絶滅危惧種に指定されています。一番広い範囲に住んでいるのはヒグマで、ユーラシア大陸・日本・北米で見られます。日本では馴染みが薄いメガネグマは、南米のアンデス山脈に暮らす唯一の南半球のクマです。みんな大好きパンダは、中国の山地の狭い範囲で暮らしています。動物園でしばし着ぐるみと間違えられるマレーグマは、その名の通りマレーシアやインドネシアなどアジアの熱帯域で暮らしています。現地では割と身近らしく、インドネシアの大学を訪ねた際、キャンパスにマレーグマが出たことがあるよ、と現地の研究者が教えてくれました。ツキノワグマは、日本・台湾・ロシア東部、中央アジア各地に生息しています。日本人には意外かもしれませんが、世界的に見ると個体数が少なく絶滅危惧種として保護対象になっています。 地域や時代によるクマの状況の違い 生息範囲が広く、人との関わりが強いクマは、地域や時代によって生息数や絶滅の危険度が違います。そのため、地域や時代によって保護のスタンスが違います。日本のツキノワグマの場合、かつては本州・四国・九州に生息しており、50年前くらい前は特に保護されていなかったようです。1980年代くらいから、各地で狩猟禁止による保護が進みました。この頃は、自然保護論が盛んになってきた時期であり、北海道のヒグマの保護政策も1990年に策定されました。1990年代には、環境省が指定する「絶滅の恐れのある地域個体群」に、下北半島、紀伊半島、東中国、西中国、四国、九州のツキノワグマが指定されました。地域個体群は、ツキノワグマの遺伝子の違いに基づいて決められています。遺伝子の違いで分けることで、数を維持するだけでなく、遺伝的な豊かさも保ちながらクマを管理できます。 絶滅の恐れのあるツキノワグマ地域個体群 絶滅の恐れのある地域個体群の内、四国以外では分布が広がっており、特に東中国と西中国では出没や人身事故も起こることから、上限を決めて有害捕獲しています。四国では個体数が極めて少なく(20頭前後)、捕獲は禁止されています。四国はツキノワグマが暮ら...

私とクマ(子育てと文化ネットワーク佐賀に掲載された記事)

子育てと文化ネットワーク佐賀に掲載された記事の転載。許可は得ている。 頑張って書いたのに、読者が限定的な媒体に載せられたのが残念なのでブログに転載した。 ヒグマ研究グループ 高校卒業後、大学進学のために北海道札幌市に引っ越しました。大学ではヒグマ研究グループ(以下クマ研)という、北海道各地でヒグマを調査するとてもユニークなサークルに入りました。クマ研は1970年にヒグマを見たい!という大学院生が立ち上げた学生サークルで今も元気に活動しています。クマ研の大きな活動は、北海道各地でヒグマの痕跡(フン・足跡など)を記録する調査、樹木のない高山帯での直接観察調査です。ヒグマのフンを見つけると1万円札を拾った時のように大喜びし、ヒグマと遭遇した時は恐怖と興奮が入り交じった気持ちになります(興奮が上回ることも)。直接観察調査では1ヶ月もテントで暮らしながら、離れた場所からクマを探します。クマが見れないとただのテント生活になりますが。ちなみにサークルではヒグマ漬けの日々でしたが、実際の学部は理学部で地質学を専攻していました。1年生の成績で専攻を選べるルールだったのですが、サークル活動が忙しかったため成績が振るわず、嫌々地学を専攻することになりました。 ヒグマを本格的に研究する 岩石の研究は思ったより楽しかったですが、やはり石を砕いているだけでは野生動物への情熱は満たされなかったので、大学院からヒグマの研究を始めました。世界自然遺産の知床半島では、ヒグマが地面を掘ってセミ幼虫を食べるという面白い話を聞いたので、ヒグマのセミ食い行動を研究することにしました。ヒグマのセミ食いは他の地域で全く報告されてなかったので、まずはヒグマのフンをひたすら集め(特技?)、セミ幼虫を食べるための掘り跡やセミの羽化数を記録しました。調査方法は原始的で、毎日森に出かけて、フンを探しながらセミの抜け殻を集め、掘り返されている場所を記録するといった感じです。これを合計2カ月くらい繰り返しました。主な発見としては、①ヒグマは2000年くらいからセミ幼虫を食べるようになった、②ヒグマはマツの人工林でセミ幼虫を食べている、③天然の森よりもマツの人工林の方がセミが沢山いる、の3つです。マツの人工林は戦後に人が作った新しい場所なので、ヒグマのセミ掘り行動は、新しい場所でエサを取ることを学習した結果生まれたようです。研究...