どうして九州には熊がいないのだろう?(子育てと文化ネットワークさがに乗った記事)
せっかく頑張って書いたのに(以下略)
クマはどこにいるのか?
クマ(クマ科 )は8種類いて、世界の広い範囲に暮らしています。広い範囲で見られるからといってたくさんいるわけではなく、ヒグマとアメリカクロクマ以外のクマ(パンダやホッキョクグマ)は国際自然保護連合 の絶滅危惧種に指定されています。一番広い範囲に住んでいるのはヒグマで、ユーラシア大陸・日本・北米で見られます。日本では馴染みが薄いメガネグマは、南米のアンデス山脈に暮らす唯一の南半球のクマです。みんな大好きパンダは、中国の山地の狭い範囲で暮らしています。動物園でしばし着ぐるみと間違えられるマレーグマは、その名の通りマレーシアやインドネシアなどアジアの熱帯域で暮らしています。現地では割と身近らしく、インドネシアの大学を訪ねた際、キャンパスにマレーグマが出たことがあるよ、と現地の研究者が教えてくれました。ツキノワグマは、日本・台湾・ロシア東部、中央アジア各地に生息しています。日本人には意外かもしれませんが、世界的に見ると個体数が少なく絶滅危惧種として保護対象になっています。
地域や時代によるクマの状況の違い
生息範囲が広く、人との関わりが強いクマは、地域や時代によって生息数や絶滅の危険度が違います。そのため、地域や時代によって保護のスタンスが違います。日本のツキノワグマの場合、かつては本州・四国・九州に生息しており、50年前くらい前は特に保護されていなかったようです。1980年代くらいから、各地で狩猟禁止による保護が進みました。この頃は、自然保護論が盛んになってきた時期であり、北海道のヒグマの保護政策も1990年に策定されました。1990年代には、環境省が指定する「絶滅の恐れのある地域個体群」に、下北半島、紀伊半島、東中国、西中国、四国、九州のツキノワグマが指定されました。地域個体群は、ツキノワグマの遺伝子の違いに基づいて決められています。遺伝子の違いで分けることで、数を維持するだけでなく、遺伝的な豊かさも保ちながらクマを管理できます。
絶滅の恐れのあるツキノワグマ地域個体群
絶滅の恐れのある地域個体群の内、四国以外では分布が広がっており、特に東中国と西中国では出没や人身事故も起こることから、上限を決めて有害捕獲しています。四国では個体数が極めて少なく(20頭前後)、捕獲は禁止されています。四国はツキノワグマが暮らす島としては世界で最小の面積 です。絶滅の危機に瀕する理由の一つは、他の地域からクマが移動できないからだと考えられています。中国地方のクマとは遺伝子的に別のグループなので、泳いで瀬戸内海を渡ることはなかったようです。瀬戸大橋を渡れればいいのですが。
九州のツキノワグマ
九州のツキノワグマは、2012年に環境省が絶滅宣言を出したので、もう居ないということになります。同じころ、日本クマネットワークが、最後に目撃情報のあった祖母傾山系にて大規模な調査を実施しましたが、生息が確認されませんでした。今でも探している方もいますし、時々目撃情報がありますが、絶滅していると考えてもいいでしょう。最後に九州でクマの情報があったのは1987年ですが、遺伝子を調べたところ、本州中部から移入された個体だったようです。その理由は謎です。最後の確実な目撃情報は1957年、捕獲は宮崎県高千穂町で1941年が最後なので、70年くらい前にはすでに絶滅していたようです。
九州のツキノワグマはなぜ滅んだか?
さてメインの話題です。滅んでしまった理由を考える以前に、実は九州には元々ツキノワグマが少なかった可能性を議論します。ツキノワグマは涼しいところにある落葉広葉樹林を好みます。しかし温かい九州では、森林の大部分が照葉樹林 で、落葉広葉樹林は山の高い部分にしかありません。そのため、九州では元々ツキノワグマにとっての適した生息地が少なかったようです。また、九州には狩猟したクマを祀るための熊塚を建てる文化がありました。人間の影響で数が減ってから始まった文化の可能性もありますが、クマを大切に扱うのは、もともとクマが少なかったからかもしれないです。
九州は古くから森林を積極的に利用しており、広葉樹林を人工林に転換したり、山奥で焼畑農業してきました。ただでさえ小面積の落葉広葉樹林は、こうした土地利用によって更に小さくなり、ツキノワグマの生息地は減ってしまいました。1941年が最後の捕獲なので、戦後に広葉樹林を伐採し人工林を植えた「拡大造林」によって絶滅したわけではないようです。四国のクマが減ってしまった理由は、この拡大造林と、造林作業の妨げにならないように熊の駆除を推奨したことなので、この点は四国と九州で違います。四国は九州よりも山が険しく人口が少ないので、戦後の拡大造林までは奥山が大規模に利用されなかったのでしょう。
最近は山口県でもツキノワグマが分布を広げているらしいので、もしかしたら関門海峡を渡ってクマが九州に上陸するかもしれません。海峡は瀬戸内海より狭いですが、渡った先に人里があるので定住は難しそうです。
もし今も九州にツキノワグマが住んでいたら、九州の皆さんはどう感じるでしょうか?怖いですか?会いたいですか?
参考文献
山﨑晃司(2019)「ムーン・ベアも月を見ている クマを知る、クマに学ぶ 現代クマ学最前線」フライの雑誌社 ←ツキノワグマのことを楽しく学べるおすすめの一冊。
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