レビュー論文が受理されるまでの道のり

12月20日に自身初のレビュー論文が受理された。若い時代にレビューを書くことが目標だったので嬉しい

10.1016/j.tree.2024.12.011

画質が荒い


この論文が受理されるまでの経緯を紹介したい。

学会での集会開催→国際学会で共同研究者発見→論文執筆という流れは典型的かもしれないが、色々と良い経験ができたので、長文だが紹介する。

2022年3月:生態学会での自由集会

2022年の生態学会で「地上部と地下部の相互作用における動物の役割」という自由集会を企画した。トピックはお気に入りの地上ー地下相互作用。学部時代に読んだ「地上と地下のつながりの生態学(深澤ほか訳)」という本に影響され、興味を抱いていた。

集会の目標は「議論内容に基づき総説を書く」。雑誌名を聞かれた際には迷わず、Trends in Ecology Evolution (TREE)と答える。共同企画者に目標は高い方が良いと言われたからである。

オンラインだったが90人くらい参加、各発表者も興味深い研究を紹介してくれた。自分からは分野の概観を紹介した。オンライン懇親会では、1時間くらい総説のアイデアをぼんやりと議論した。

集会後の議論だけで論文になる程具体的な話し合いができなかったのと、大学にポストを得たのもあって、しばらく寝かせることに。教員1年目は暇だったので、ボチボチ書いていたがまとまる気配はなかった。

2023年7月:国際学会での出会い

2023年にアラスカで開催された国際哺乳類学会IMCに参加した。初の国際学会だったが、ポスターの持ち運びがめんどくさくて、口頭発表することにした。

哺乳類を対象にした群集生態学のセッションで発表した。トップバッターだったが、朝早いのもあり30人くらいしか聴衆がいなかった。"Have you ever eaten insects?"と質問してみるも、あまり笑いを取れず。。。司会者は苦笑いしてた。

自分の後に、「永久凍土の融解によってネズミの生食・腐食食物網への依存度が変わる」という発表があった。「これは地上地下相互作用だ!、しかも哺乳類!」と激アツだったので、セッションが終わった後に発表者に突撃して、質問したり色々議論した。そこで連絡先を交換。

自分の研究にも興味があったらしくたくさん質問してくれた。同じセッションの者同士、お互いの研究を紹介し合えるので交流しやすい。

翌日、あのレビューを彼にも協力してもらおう、と思い立ち、会場で探す。ポスター会場の隅で何かを食べている彼を見つけたので、声をかける。論文を書いていること、一緒に書きたいことを伝えた。

そうすると「Which journal is your target?」と聞かれたので、分野の一番影響力のあるジャーナル名(TREE、Ecology lettersなど)を列挙する。すると笑顔で握手を求められ、商談成立。

実はその前日、日本人の先輩に目指すジャーナルを聞かれた時に、哺乳類学の国際誌と答えていたが、そんな回答をするとアメリカ人はノってくれない気がしたので、大きく出ることに。集会開催時点ではTrendsが目標だったが、うまくまとまらずに弱気になっていたようだが、英語で話している高揚感か知らんけど、ハイになって強気に回答してしまったようだ。

与太話

飛行機のスケジュールを間違えて、自分の発表の2時間前に空港着予定にしていた。飛行機予約後に、会場と空港の間には公共交通機関がなく、1時間くらいかかることが判明。これは詰んだと思い、口頭発表の日程を変えてもらえないか、同じセッションの発表者に片っ端からメールし、親切なポスドクさんに同情してもらい、なんとか到着の翌日にリスケしてもらえた。

実は、リスケ先のセッションに共同研究者の彼「フィリップ」がいたのだ。仮に私が飛行機を余裕を持って予約し、当初のセッションで話していたら、彼と知り合えなかった可能性が高い。片っ端から交換メールを出していた一人にフィリップもいたが断られていた。

お互い同じセッションで研究を紹介できたことで交流も深まったから、商談が成立したのだろう。

飛行機の予約ミスから始まった奇跡の出会い、ってこと?

2023年9月:プロポーザル作成

レビュー論文については、本文を投稿する前にプロポーザル提出を求める雑誌が多い。レビューはアイデアやコンセプトが大事であり、これらは短い文章で表現可能である。

逆に原著論文は、データの質や量、解析手法などが掲載の是非を決めることが多く、本文を読まないことには判断ができないので、プロポーザル提出は求められない。

帰国後、日本の共同研究者に、国際学会で素晴らしい共同研究者を見つけてきたことを報告、レビュー論文を再始動することを声高らかに宣言し、フィリップによろしくメールを送る。

先輩から採択されたプロポーザルをもらって、それを参考に構成してみる。学振などでもよく言われるが、身近に採択者がいるのはとても心強い。

共著者は合計6人いるので、500words程度のプロポーザルを完成させるのも大変だ。6人の独立した研究者からの鋭い指摘を毎回受け、反映させたりさせなかったりとこれを繰り返すわけである。

2023年3月18日にプロポーザルを提出し、同28日に受理され、本文投稿が認められた。学会が7月に開催され、なんやかんやで3月まで投稿がかかったようだ。この間も他の研究を進めたり、大学の仕事をこなしているので、何もしてなかったわけではないけど、半年くらいかかったわけだ。

500字のプロポーザルを作る過程で6コメント×3回=18回くらい修正した気がする。あと、作図がとても大変だった。字数が限られているので、採否は図によって決まると言っても良いだろう。結局本文に載せた図3枚をプロポーザルに添付することに。

2024年7月:本文投稿

プロポーザルを作っている段階で本文も細々とは書いていたが、本文提出を求められてから本番スタートである。締め切りは7月2日。プロポーザルも通ったし、4ヶ月もあれば余裕だろうと思うが、思ったより時間がないのである。まず肉付けする時点で、フィリップと月1くらいで話し合う。

6月に、やっと満足のいく本文ができたが、分野に精通した共著者が6人もいるため、コメントがかなり鋭い。査読のようなものだ。これも3〜4回やりとりしたので、6人それぞれと考えると、20回くらいは何らかの修正を加えたことになる。結局締め切りを守れず、1ヶ月延長を申し立て、本文は7月30日に投稿した。

本文を書く際に、英語母語のフィリップがいてくれたのが本当に心強い。英語表現をとにかく丁寧に修正したりコメントしてくれて、表現が洗練されていった。

アイデアとコンセプト、流れや事例紹介は私に起するものが多かったが、表現や構成は共著者やフィリップに本当に助けられた。

2024年12月:査読&リバイス、受理

査読結果は、9月下旬に返ってきた。

2名の査読者で1名は微妙、もう1名は署名付きでかなりポジティブ、エディターはポジティブな方を優先しているコメントだった。

ちなみに担当エディターは委員会メンバーではなくてチーフの方であり、この方がプロポーザルから一貫して担当してくれた。Cell pressに雇用されている研究者のようだ。この辺も伝統的な学会誌とは全然違う。TREE自体はかなり昔からある伝統誌だが。

10月下旬に修正し、再投稿。共著者とのやり取りの中で、生態学の本質的な問題について議論できたり、有意義であった。

12月下旬に受理の通知。リバイスはしっかり詰めたが、時間がかかっているので新しい査読者を呼ばれたかと不安になったが、査読者が増えることなく、前回の2名が改訂原稿を認めてくださり、受理された。

指導教員としか論文を書いてこなかった私にとって、これだけ多くの研究者、しかも全員独立PI、との執筆は大変であるとともに、勉強になった。査読以降がスムーズだったのは、共著者のコメントを反映させているからだろう。

感想

構想から受理まで、2年半の流れは以下の通り。良い結果に終わったが、振り返ると結構大変だった。

2022年3月:集会企画、論文書きます宣言

2023年7月:国際学会での出会い、再始動

2024年3月:プロポーザル投稿

2024年12月:受理

もっと原点を振り返ると、地上と地下のつながりの生態学に興味を持った学部の頃がスタートなのかもしれない。学部は何故か地質学を研究しており、土壌に自ずと興味があったか知らないけど、偶然、落丁版の本書をアウトレットで買い、読み込んだのが原点なのかもしれない。

背表紙とページが分離しており、現在は読めたものではないが、貧乏学生ゆえにこの本を手に取ったと考えると、捨てることはできまい。線やメモがたくさん書かれており、思い出が詰まっているわけで。

大学院に入り、ヒグマの掘り返しを研究するようになって、この分野とは違う視点で進んできた。

レビュー論文のアイデアとコンセプトはヒグマ研究から生まれた部分が大きい。

この分野は微生物と植物の相互作用で置き換えられることが多いが、自然界ではヒグマの掘り返しのような撹乱によって土壌や植物が大きく影響を受ける。フィールド観察や研究を通して、既存のメソコズム実験がベースの枠組みに違和感を抱くようになった。こうした影響を地上地下相互作用の枠組みでどのように整理するか、整理する意義をまとめたのが、今回のレビューである。何かが1周回って1つの作品になったような気がして、感慨深い。

論文のタイトルには、aboveground(地上)とbelowground(地下)という単語が入っている。表現に違和感があり、soilの方が良いと思うのだけど、この2語はぜひ入れたいと考えてきたので、共著者と査読者から修正を求められなくて良かった。

以上、こんなに長文書いたのは数年前に学振採用された時以来だ。

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