2020年の学振についてPart2

 Part2

2021/4/1追記:2022年度申請書はまたフォーマット変わりました、このポストの内容はそこまで参考にしないで下さい。ただ「業績が羅列でなくなった」「計画が短い」「コロナ対策」「プレプリントについて」などは2022年度版でも大切なので参考になることがあるかもしれません。新しい学振申請書の書き方については、Kimさんのブログが参考になります。

リンク:https://kimbio.info/gakushin-dc-2022/

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フォーマット・採点項目が2020年から変わった話。

2020年から学振のフォーマットが大きく変わった。個人的には、この改変は大賛成である。なので以下は賛成派としての意見です。このポストでは、2021年度申請書の改変の理由や対策について考察してみる。

1.業績欄が羅列式でなくなった。

2019までのいわゆる「業績欄」が「4.【研究遂行能力】」として、単なる業歴の羅列ではなくて、それぞれの業績の詳細を書くことが求められた。共同研究の業績であれば、自分の担当を明記せよという感じの要求だろう。ちなみにこの方式は現在の科研費フォーマットとほぼ同じである。

「5.【研究者を志望する動機、目指す研究者像、アピールポイント等】」が長くなり、

「② その他、研究者としての資質、研究計画遂行能力を審査員が評価する上で、特に重要と思われる事項(特に優れた学業成績,受賞歴,飛び級入学,留学経験,特色ある学外活動など)」

という要求が消えた。4・5の改変により、この②は、2020年からは「4.研究遂行能力」に書くことが求められた。”5”には、受賞や成績などを羅列して業績PRするよりも、申請者のパーソナリティや哲学、アピールポイントをしっかりと披露してほしいということなだろう。

業績はあくまで「申請者のポテンシャルを測る指標の一つ」というメッセージをこめて、業績の羅列はもう止めて、遂行能力を鑑みるために、各業績の経緯を書かせるようにフォーマット変えたのではないかと思う。DCはそこまで業績重視されない時代なのかもしれない。

この改変は、学振が業績コンペ化しつつある現状を変えうると思っている。M2~D1までの業績だけでは研究の資質なんてまだ分からない。学振を1つの目標と位置付けて業績稼ぎを頑張るのは悪いことではないけど、「戦略的に業績稼ぐ力」=「研究者としての資質」ではない(もちろん業績をパッパと出せる奴は総じて優秀)。

特にキャリア初期の業績は外的要因に左右されやすい。たとえば同時期に論文投稿したとしても、査読の早いOA誌に投稿したら学振までにアクセプトされたけど、査読がそこまで早くない伝統誌にSubmitしたら間に合わなかった、とかは今日では普通にあり得る。

業績を重視するのは、若手研究者のポテンシャルを正しく評価する上で最適ではないのかもしれない。

プレプリントについて

論文が投稿・査読中で間に合わなかったのでプレプリントを業績欄に書いた。私は「査読なし論文」として書いたけど、審査員の中にはプレプリントを業績に書くことを不審に思う方もいるらしい。プレプリントが普及している分野であれば問題ないだろうけど、プレプリントがそれほど普及していない可能性がある生態・森林・水産などの分野では、論文欄よりも「その他」として書く方が無難かもしれない。ただしDOIが付いてることが論文の定義なのだとすると、DOIが付与されるプレプリ(bioRxivなど)は、査読なし論文として書いてもいいのかもしれない。

プレプリをどこに書くかはさておいて、学振のためにプレプリントサーバーに査読中論文をアップすることは戦略としてアリだと思う。可能性は低いが審査員がプレプリ論文を読んでくれて論文執筆能力を評価してくれることもあるだろう。

成虫に抜け殻が乗るという珍百景


2.「これからの研究計画」のスペース配分

これまでの研究~これからの研究計画(1)研究の背景まではこれまで通りだった一方で、「(2) 研究目的・内容」が半分に、「(3) 研究の特色・独創的な点」のスペースが2倍になった。(下図の通り)

2020年からのフォーマット


2019年までのフォーマット

特色・独創性・意義をこんなにたくさん書くのは大変だ。自分はかなり苦戦し、最初に書いていたテーマだと、この「特色・意義」欄が全然埋まらなかったので、途中からこのスペースがしっかりと埋めれるようなテーマに、すなわち「特色・意義」がたくさん書けるような研究テーマ、に変えた。

感覚的には、研究内容(=計画)を埋めるのはそんなに大変ではない。実験条件などを羅列するだけで割と埋めれる。その一方で「特色・意義」は、論文をたくさん読み、分野の穴やニーズを理解できてないと書けない。業績数でなくて、申請書そのものからポテンシャルを汲み取るのであれば、この項目の書きっぷりを研究能力として評価するのは妥当だろう。あたりまえだけど「特色・意義」が埋まらない研究にインパクトはないと思う。たとえ業績があっても、この部分をしっかり書けないと「遂行能力」「資質」が低評価になるんではと予測。業績が全くないけど「特色・意義」をしっかり書いてた後輩がDC2補欠になってたので、N=1だけどこの予測は割と的を得てるかも。

次に、この改変に対する学振サイドの意図を考察する。採点項目は、2019年までは「研究計画」があったのだが、2020年は「着想・オリジナリティ」に変わっていた。「研究内容」を短く、「研究の特色」を長く改変した理由は、研究計画性よりもオリジナリティを評価するようになったからのだろう。

研究計画のウェイトが低くなった理由は、ずばり「細かい方法を読んでも、その実行可能性が分からない」に尽きると思う。人類史が進むにつれて、現象や対象生物によって研究分野は細分化しながら急速な発展を遂げており、少しでも分野を外れると「何ができて、何ができないのか」が判断できなくなってきている。

むろん、そういった問題をなくすために、分野ごとに採点されているのだけど(参考リンク)、例えば、クマの生態についての申請書を森林圏科学で出した場合、専門外(例:木材化学・育種)の研究者がクマ研究の実行可能性を判断しなければいけないケースが生じるだろう。小分野までぴったりな審査員が判断する可能性は極めて低い。そもそも自分と同じ専門かつ対象の研究者が日本に何人いるのか、そしてその人が審査員に選ばれてる確率は何%なのか??

2021年4月1日追記:短い計画スペースではフローチャートなどを活用することが推奨されているらしい。


学振制度は、創造性豊かな研究者を育成するためにある。判断が難しい研究計画や色々な外的要因に影響される業績を重視する傾向から、申請書そのものから学生の研究能力を評価するための新フォーマット&着想・オリジナリティを重視的に評価する新たな採点項目への改変は、好意的に捉えるべきと考えている。まあ通ったから支持してる部分もあるけど

ちなみに10年以上前は、また違ったフォーマットだったらしい。

あと今年は「(5) 人権の保護及び法令等の遵守への対応」にコロナ対策を書いた。このスペースに、コロナ禍でも予定を変えたら研究実行できる旨を書いた。実際、今年の海外PDの方々は渡航禁止で研究できなくなっているし、今後しばらくはコロナと付き合いながら、研究していくスタンスも大切になる。そうしたビジョンがあると実行能力が高評価されるのかもしれない。というか、来年の学振に「コロナ対策」っている項目が入ってくるんかなと真面目に予想している。

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