論文:捕食者の音声を利用した農作物被害の軽減
メモ代わりに読んだ論文の概要をポストしておくことにしました(22年7月〜)。
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Widén, A., Clinchy, M., Felton, A. M., Hofmeester, T. R., Kuijper, D. P., Singh, N. J., ... & Cromsigt, J. P. (2022). Playbacks of predator vocalizations reduce crop damage by ungulates. Agriculture, Ecosystems & Environment, 328, 107853. https://doi.org/10.1016/j.agee.2022.107853
一言で:捕食者音声を使って農地からシカを追い出せ!!
捕食者の音声プレイバックとカメラトラップを統合した装置(Automated Behavioral Response systems, ABRs(注))を使って、シカに捕食リスクを経験させて農地への出没を抑えれないかどうかを検討。ABRを使って捕食者と被食者の「食う食われる」を介さない相互作用を調べる研究が最近盛んだが、この研究では農業被害の軽減のために応用してみた。
注)ABRsとは、撮影センサーが切られると同時に音声が再生されるようなシステム。作り方はSuraci et al 2019で解説されている。ラズパイとか使えば自作できるか?
調査地はスウェーデンの農地。
15〜28haの7プロットを設定し、カメラトラップをそれぞれに6ヶ所設けた。内2つを音声構成の異なるABRsとし、4つを音声がない対照区とした。ABRsの音声構成は、捕食者(犬・オオカミ・人間)・非捕食者(鳥)からなり、1つは捕食者の音声がもう1つよりも高頻度で再生されるようにした。順番はランダムにしている。カメラトラップごとに稲穂の食害度を調べて、捕食者の音声再生の効果を評価。
シカの利用度・食害度はABRsの方が優位に低かった。ただし、ノロジカ・ダマジカで効果に種間差が見られたり、捕食者の音声の頻度間では有意差が見られなかったりした。ちなみに、音声タイプごとの影響力も調べているが、人>オオカミ=犬>=鳥という順位だった。
現場でどれくらい使えるかという点では、「慣れ」を考えた方がいいと議論。4週間という実験期間では効果があるが、それより長い場合はどうなるのか?といった課題はある。他の研究の数字を使って(ABRsは1km2・5週間有効?)、導入へのコストを考察している。
感想
林業現場で似たような実験ができないかと考えていたので、とても参考になった。日本だと「人・熊・犬・キツネ」かな。キツネの鳴き声はわからないけど(コンコン?、EDMか!!)、ウサギには有効かも。結局人が一番の捕食者だから人間の叫び声を再生させるだけでよさそうだ。
ぱっと見では電気柵を張るよりも低コストに見える。実際に応用するときは、カメラ機能は不要なので、もっと安く済むかも。柵などの実際の防除方法と比べて低コストになるのかどうかは検討が必要だろう。ただし、音声だと拡散範囲が大きいので意外にうまくいくかもしれない。
最近Ecology of fearを応用した野生動物管理などが実装に向けて色々と研究されているので、要注目。哺乳類学者がイニシアチブを握れそうな研究分野。
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