論文:The psychology of natural history.の感想

 自然史の心理学というタイトルのミニエッセー。

Burns, K. C., & Low, J. (2022). The psychology of natural history. Trends in Ecology & Evolution 37: 1029-1031 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S016953472200221X

「意外性を発見する」自然史観察の研究アプローチがPrediction error learningという心理学で良く知られた人間の学習(認知)システムに該当するらしい。色々描いてあるが、要するに著者らは、自然史観察研究を「仮説検証の外道」とか「Preliminary study」として扱うよりも、人間心理に従った立派なアプローチであると主張しているのだろうか。

感想

野田・宮下の群集生態学には「自然史観察→パタン認識→仮説→検証」という流れが生態学の王道のように描いてあったので、仮説検証と対比すべきなのかはなんとも言えないが。

どちらかというと最近は仮説検証のフォーマットを絶対とせずに「自然史観察→パタン認識」までの流れを素直に描いた方が面白ければそれも論文として認めましょうという流れになっており「Renaissance of natural history」を迎えているのでは?

その背景としては、データ取得・解析手法の高度化・多様化があるのでは?と考えている。技術が乏しい時代はパタン認識の時点では定性的な情報しか得られなかったが、最近では自然史観察・パタン認識の時点でしっかりとしたデータが得られ、データ解析も発展しているため、わざわざ仮説を検証するための実験までしなくても十分だと考えられるようになっているのかもしれない。データサイエンスの進歩が貢献するという点で、近年のマクロ生態学の発展と同じ理由だろう。自然史観察とマクロ生態学の発展の背景が同じだとしたら非常に興味深い。

「Renaissance of natural history」は、自然史観察の仮説検証を重視しすぎたあまり予想外の発見をもたらす自然史を軽視している最近の生態学に対するアンチテーゼであるとも考えられる。

あとは、生態学の一般論・理論は成熟してしまったため、ケーススタディの蓄積や自然環境での適用可能性を探ることの重要性が増しているのかもしれない。その場合、自然史観察はかなり重要な分野になってくるだろう。これは最近のメタ解析の流行と似たような理由なので、対極にありそうな研究アプローチの流行が同じだとすると興味深い。

もう一つは単純に、論文の印刷が不要になって論文を気軽にカラーページにできるようになってきたため、自然史研究が「バエやすい」という可能性もある。

ちなみに、Ecologyの自然史コーナのAltmetricsを計算して他の論文と比べる図が載っているが、これは去年ブログで僕がやった解析とにていた笑。結果も解析方法もほとんど同じ。

目的は違うけど惜しいことをしたなぁ笑。

コメント

このブログの人気の投稿

レビュー論文が受理されるまでの道のり

育児休暇前半戦を振り返る:育児編

育児雑感:父親と母親の表象