感想「大学改革〜自立するドイツ、つまずく日本」

本書は、大学の法人化の狙いと現状をドイツと比べることで議論している。感想というかメモを以下に書く。紹介は別ポスト。

法人化によって大学が国の統制化に置かれ、予算を減らされたと思っていたが、法人化は予算と関係ないし、国の統制も本来であれば弱く(間接的に)なるということに最も驚いた。
法人化は、大学の自律と研究教育の活性化を狙っていたにもかかわらず、自律が進まなかったことで、制約のある条件下での歪な競争が発生し、現在の大学間格差が生まれたらしい。税金の使い道が厳しく市民に審査される現代社会で、象牙の塔であったかつての大学が許されるとは思えないので、法人化は必然であった。日本の場合、大学が政府に提出する中期計画が細かすぎることで、窮屈さを感じるようだ。

結局ドイツが緩やかな管理でうまくいくのは、研究者レベルが高い点と大学と政府の信頼関係が日本ほど悪くない点だと説明されていた。これらは元を辿ると、ドイツと日本の高等教育の歴史の違いによるのではないかと考える。ハイデルベルグ大学・ケルン大学は14世紀に設立されているが、東大は19世紀である。日本では、大学ができるまでは研究は民間が中心であったため、大学の自律運営や研究レベル、政府との信頼関係に違いがあるのはしょうがないと思った。

また、日本の大学が統制されながら競争を強いられている点は、競争・市場主義的な性質を大学に求めるのはアメリカの影響があるのかもしれない。計画の審査などが世界で類を見ないほど細かいのは、日本人的性質なのか?

現在大学が強いられているのは国からの資金調達であるので、特定テーマでどうにかして金を取るしかない。結果、大学間の個性が弱くなっている印象がある。4章で論じられていた画一化された大学間競争の結果、大学の個性が弱まるというのは現場で働く身として実感している。農学部の最近の流行はDSDXによる効率化だが、地方大の多くが同時に力を入れ始めている。
自分もDX枠で採用され、担当授業のほとんどはDX関係である。野生動物研究は人気の割に学べる大学が少ないため、専門を押した方が大学の人気に繋がりそうだが、残念ながらDX関係の授業が忙しいので、野生動物関係の教育はあまりできていない。

ちなみに高知・愛媛・香川・徳島大学の中期目標を比べると、地域連携・国際化など似ている点が多い。国から与えられた宿題に答えんとする大学の様子がよくわかる。中期計画は煩雑かつ細かすぎて読むのをやめた。数値目標がかなり具体的だ、「**年以内に**人輩出する」など。これを審査するのに莫大な時間と労力がかかると1章に書かれていたが納得だ。そして、宿題が与えられているようなものなので計画も似る。どのように計画と達成状況だけで大学間で順位をつけているかとても不思議である。

うちの大学では、少子化によって定員割れを懸念してるにも関わらず、受験枠を新設し定員を増やした。中期計画を読むと、地域創生推進士を6年間で180人以上育成するとあり、この推進士育成のための新カリキュラムに該当する受験らしい。数値目標を具体的に記述するために、新たな受験枠を設けざるを得ず、少子化にも関わらず定員が増えたというわけである。

本書は大学教員ならぜひ読むべきだろう。地方大では助教でも運営に関わらざるを得ないため、教授会で何を議論しているのか理解しておいた方が良い。会議では、業績協定・中期計画・学長裁量・法人評価など謎単語が飛び交うのだが、本書を読むとその意味や議論の主旨が分かるようになるだろう。大学教員は個人主義が多いが、自身の職場環境の現状を俯瞰できて損はないだろう。

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