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2024年に読んで面白かった訳本

 2024年に読んだ訳本のうち、特に面白かったものを紹介。 キツネを飼いならす: 知られざる生物学者と驚くべき家畜化実験の物語 ロシアで進められてきたキツネの家畜化実験についての物語。シベリアのキツネの家畜化実験は、進化生物学の最も有名な研究だが、その背景はとてもドラマチックだ。この実験は、冷戦化のソビエトで、タイトルにある「知られざる生物学者」ことドミトリ・べリャーエフによって始められた。実験を開始した時代、ソビエトはルイセンコ(獲得形質の遺伝をベースにした農業改革を実施した悪名高い生物学者)が全盛期であり、進化実験などやるものならシベリアに飛ばされてしまうような状況だ(実際にシベリアで実験したのだが。笑)。 べリャーエフは毛皮の効率的な生産を建前にしてキツネの飼育実験を開始し、累代飼育を重ねた。そもそも家畜化進化は犬や牛でも長い時間かかりそうなので、基礎研究としてもリスキーな上、社会情勢も最悪。この最悪の状況下で、このリスキーな実験を開始する時点で、熱いストーリー間違いなしである。 本書は、生物学解説とドラマのバランスが素晴らしい。著者の一人リュドミラ・トルートはべリャーエフの教え子で、彼亡き後にプロジェクトリーダーになった研究者である。後半は主にリュドミラとキツネの関係や、世代を重ねるごとに変化するキツネが物語の中心である。べリャーエフは、実験の立ち上げ後はプロジェクトリーダーとしてロビー活動が増え、現場は主にリュドミラとアシスタントが中心になる。。 さらに、社会情勢の変化に伴い何度も存続の危機に立ちながらも、実験を継続する様子は読みごたえがある。 家畜化実験に加え、国際学会の開催など、ルイセンコによって地に落ちたロシアの遺伝学を国際レベルに戻したべリャーエフの男気?胆力?には心惹かれるものがある。また、べリャーエフ亡き後、次々に明らかになる家畜化進化の遺伝的メカニズムは、べリャーエフが実験当初に予測したものと合致しており、科学的洞察力の高さにも脱帽だ。 そのほかの見所は口絵のキツネが美しく可愛いとこだろうか。 「絶滅の時代」に抗って――愛しき野獣の守り手たち 野生動物保護の黎明期から現代にかけて活躍?大暴れ?した活動家や研究者についての伝記。各章に1、2名主人公が登場し、自然保護・生態系保全についての信念や活動が綴られる。 序章はリンネが主人公。生物...

感想「大学改革〜自立するドイツ、つまずく日本」

本書は、大学の法人化の狙いと現状をドイツと比べることで議論している。感想というかメモを以下に書く。紹介は別ポスト。 法人化によって大学が国の統制化に置かれ、予算を減らされたと思っていたが、法人化は予算と関係ないし、国の統制も本来であれば弱く(間接的に)なるということに最も驚いた。 法人化は、大学の自律と研究教育の活性化を狙っていたにもかかわらず、自律が進まなかったことで、制約のある条件下での歪な競争が発生し、現在の大学間格差が生まれたらしい。税金の使い道が厳しく市民に審査される現代社会で、象牙の塔であったかつての大学が許されるとは思えないので、法人化は必然であった。日本の場合、大学が政府に提出する中期計画が細かすぎることで、窮屈さを感じるようだ。 結局ドイツが緩やかな管理でうまくいくのは、研究者レベルが高い点と大学と政府の信頼関係が日本ほど悪くない点だと説明されていた。これらは元を辿ると、ドイツと日本の高等教育の歴史の違いによるのではないかと考える。ハイデルベルグ大学・ケルン大学は14世紀に設立されているが、東大は19世紀である。日本では、大学ができるまでは研究は民間が中心であったため、大学の自律運営や研究レベル、政府との信頼関係に違いがあるのはしょうがないと思った。 また、日本の大学が統制されながら競争を強いられている点は、競争・市場主義的な性質を大学に求めるのはアメリカの影響があるのかもしれない。計画の審査などが世界で類を見ないほど細かいのは、日本人的性質なのか? 現在大学が強いられているのは国からの資金調達であるので、特定テーマでどうにかして金を取るしかない。結果、大学間の個性が弱くなっている印象がある。4章で論じられていた画一化された大学間競争の結果、大学の個性が弱まるというのは現場で働く身として実感している。農学部の最近の流行はDSDXによる効率化だが、地方大の多くが同時に力を入れ始めている。 自分もDX枠で採用され、担当授業のほとんどはDX関係である。野生動物研究は人気の割に学べる大学が少ないため、専門を押した方が大学の人気に繋がりそうだが、残念ながらDX関係の授業が忙しいので、野生動物関係の教育はあまりできていない。 ちなみに高知・愛媛・香川・徳島大学の中期目標を比べると、地域連携・国際化など似ている点が多い。国から与えられた宿題に答えんとする大学の様...

紹介「大学改革〜自立するドイツ、つまずく日本」

大学改革 自立するドイツ、つまずく日本、竹中 亨、2024、中公新書 https://amzn.asia/d/coIz4v0 2004年の法人化以降、財政難、 研究・教育の自由度や時間が下がったことで、 日本の大学の 研究力が弱っていることが指摘されている。本書は、法人化20年という節目に、その真の目的、理論的な背景をドイツと比べながら論じている。 *注意 本書は、あくまで法人化の理論的な建前や背景を中心に論じており、予算・人員削減、研究時間減少など、法人化によって実際に国立大学に起こったことについては触れていない。そのため、本書を通して法人化による国立大学の窮状や問題点を知りたい人はもっと直接的な本を読むといいだろう。 限界の国立大学——法人化20年、何が最高学府を劣化させるのか? 、2024、朝日新書 https://amzn.asia/d/d1FhFjw (この本もネガティブな面を強調しすぎな気もするが。。。) 最近就職した自分なんかは、金が豊かな時代を知らないし、予算は自分で取ってくるのが当然だと思うので、そこまで苦しく思わないが。。。 ーーーーーー 1章では、近年の数値目標重視傾向について紹介される。日本の国立大学は、6年間を単位として、かなり細かく記載された中期計画、中期目標を国に提出することで予算を調達している。客観的に評価するために、具体的な数値を立てる必要があり、これを評価するのが法人評価である。法人評価も相当な労力をかけて実施している。業績や社会貢献などについて多数の指標によって大学ごとに評価されている。評価は、大学教員など1000人近く動員されるほど大規模である。また、社会インパクトも指標に加えられており、教員はポイントを稼げる地域貢献事業に取り組んでいる。 一方で、ドイツではこうした数値目標はほとんど設定しておらず、ある州では、研究=外部資金額(45%)、教育=修了生数(45%)、共同参画=女性教授数(10%)だけらしい。法人評価に相当するものはない。 大学の取り組みを評価する際に、そもそも数値目標は難しいし、多くの研究者も同意している。にもかかわらず数値偏重なのは、政府がEBPM(Evidence Based Policy Making)の考えに則っているためである。また、数値を示すことでメリハリを付けようとする狙いもある。その割に、法人評...

レビュー論文が受理されるまでの道のり

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12月20日に自身初のレビュー論文が受理された。若い時代にレビューを書くことが目標だったので嬉しい 10.1016/j.tree.2024.12.011 画質が荒い この論文が受理されるまでの経緯を紹介したい。 学会での集会開催→国際学会で共同研究者発見→論文執筆という流れは典型的かもしれないが、色々と良い経験ができたので、長文だが紹介する。 2022年3月:生態学会での自由集会 2022年の生態学会で「 地上部と地下部の相互作用における動物の役割 」という自由集会を企画した。トピックはお気に入りの地上ー地下相互作用。学部時代に読んだ「地上と地下のつながりの生態学(深澤ほか訳)」という本に影響され、興味を抱いていた。 集会の目標は「議論内容に基づき総説を書く」。雑誌名を聞かれた際には迷わず、Trends in Ecology Evolution (TREE)と答える。共同企画者に目標は高い方が良いと言われたからである。 オンラインだったが90人くらい参加、各発表者も興味深い研究を紹介してくれた。自分からは分野の概観を紹介した。オンライン懇親会では、1時間くらい総説のアイデアをぼんやりと議論した。 集会後の議論だけで論文になる程具体的な話し合いができなかったのと、大学にポストを得たのもあって、しばらく寝かせることに。教員1年目は暇だったので、ボチボチ書いていたがまとまる気配はなかった。 2023年7月:国際学会での出会い 2023年にアラスカで開催された国際哺乳類学会IMCに参加した。初の国際学会だったが、ポスターの持ち運びがめんどくさくて、口頭発表することにした。 哺乳類を対象にした群集生態学のセッションで発表した。トップバッターだったが、朝早いのもあり30人くらいしか聴衆がいなかった。"Have you ever eaten insects?"と質問してみるも、あまり笑いを取れず。。。司会者は苦笑いしてた。 自分の後に、「永久凍土の融解によってネズミの生食・腐食食物網への依存度が変わる」という発表があった。「これは地上地下相互作用だ!、しかも哺乳類!」と激アツだったので、セッションが終わった後に発表者に突撃して、質問したり色々議論した。そこで連絡先を交換。 自分の研究にも興味があったらしくたくさん質問してくれた。同じセッションの者同士、お互いの...

研究者ネームの変遷

学生時代:Kanji Tomita 結婚後:Kanji M. Tomita  改姓したのでハイフンで繋げるかどうか考えた末に、ミドルネームに新姓を入れることに。ミドルネーム自体は、旧姓などをつけることが多いらしいけど 2024年10月〜:Kanzi M. Tomita 実は名前の由来が天才ボノボのカンジである。彼はKanziと表記されていることに最近気づいたので論文内の名前をKanziにしようという思いつき。論文的にはTomitaとしか扱われないし、イニシャル変わらないから良いだろう。 この場合、カンジというよりカンヅィとなるようだ。ちなみにKanziはスワヒリ語で「埋もれた宝」を意味するらしい。流石にこれ以降は変わらない気がする。

ファクトチェック!:ゴールデンカムイのヒグマ

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(「子育てネットワークさが」にのった記事を許可を得て転載) 最近、漫画ゴールデンカムイの人気と実写化によって、アイヌ文化への関心が高まっています。ヒグマも再三登場し、いいアクセント?になっています。ゴールデンカムイはかなり過激でクセの強い作品ですが、アイヌ文化や北海道の自然の説明はとても正確なので、漫画を読みながらアイヌや北海道について勉強になります。 今回は、ゴールデンカムイに出てくるヒグマの生態やアイヌとの関係について幾つか取り上げて解説したいと思います。ネタバレになるので、関係するヒグマのシーンのみを取り上げストーリーについては触れませんが、ネタバレ嫌な方は原作を読んでから、スクロールしてください。 獲物を雪に埋める(1巻1話) ヒグマに襲われた刺青囚人が内臓を喰われて雪に埋められています。 ヒグマは自分の獲物を一度に食べ切らずに、土や雪に埋めて時間をかけて消費します。恐ろしいですが、リスによるドングリ貯食のようなものです。こうした状態を土饅頭と呼びます。この習性はツキノワグマとアメリカクロクマでも見られます。埋めることで死体を食べる他の動物から見つかりにくくするメリットがあります。 埋められた囚人の死体を杉本が掘り出したことで、そのヒグマが取り戻しにきます。ヒグマは獲物への執着が強いので、土饅頭にイタズラすると攻撃されることがあります。自分のサークルでも、エゾシカの死体を見つけたら近づかないことを徹底していました。 有名なヒグマの人身事故はこの執着心が原因とされています。最大の獣害として有名な三毛別ヒグマ事件では、一人目の被害者を掘り出して埋葬したことで、ヒグマが死体を取り戻しにきたと言われています。 日高山脈で起こった福岡大学のワンゲル襲撃事件では、一度ヒグマが奪ったザックを取り戻したことで、執着的な攻撃に変わったそうです。今はこうした習性は有名になり、ヒグマに奪われたモノを取り戻すのは危険だと周知されていますが、当時はそんな知識はなかったでしょう。 埋められた囚人 (野田サトル、ゴールデンカムイ1巻1話) 穴持たずのヒグマ(マタカリプ)(1巻1話) 冬眠せずに冬も徘徊するヒグマを「穴持たず」と呼びます。穴持たずの生態はよくわかっていませんが、気性が荒くなっていると言われています。ヒグマを題材にしたアニマルパニック小説「シャトゥーン:ヒグマの森」でも凶暴化...

観察・実験・数理モデル

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最近、植物の繁殖生態学を調べている。動物も面白いけど、自然史的視点で調べるなら、予想外の生き様を見せてくれる植物の方が面白いと思っている。 両性花をつける、ある昆虫媒の植物において、雄花が雌花の先に出てくる(雄性成熟)程度によってどれだけ結実率が変わるのか、という植物生態学的に基本的な問いを立てて、予察的データを取った。 開花期のある期間に150個体をマーキングし、その時点の性別を調べる。 その際に、すでにメス化している個体と、まだオスの個体を記録する。 その意味では雄性成熟というより、早くメスに変わる効果を見ている? 結実期に、結実状況を調べる。 結果、左がメス化している個体、右がオスの個体 カテゴリは見た目から判断した成功の指標。 緑と紫が失敗、赤と青が成功 すでにメスになっている、つまり雄性成熟した個体とそれ以外では繁殖状況に特に違いがなさそうという結果が得られた。 雄性成熟した花は、他よりも先にメスになるので、周りのオスから花粉をうまく受け取れるのではないかと予測していたが、繁殖状況は変わらなさそうだった。 花粉親になれりやすいのは雄のままの花なので、先にメスになった方がいいとは限らない。 直感と反する結果になったのは何故か? 全体の性比を見ていないので、マークした個体以外のフェノロジーがズレており、花粉を受け取れた。 他のパッチから花粉が運ばれてきた。 1個の雄花が複数の雌花と受粉した(虫媒なのであり得る)。 自殖した。 調査の直前はすべての花がまだオスだった(何らかの理由で半数が一気にメス化した) 直感的には、予測通りにいきそうだが、これらの理由によって影響がなさそうな結果になった。 さて今年はどうしよう? これらを一つ一つ検証する? 別の問いを立て、また調べる? 生活史研究は沼るな。。。楽しいけど 何を言いたいかというと・・・・ これまで野外観察データを使って研究してきたが、かなり大規模な(派手な?)動物の行動を対象にしてきたため、観察だけで生態的な意味をきちんと考察できていた。 こうした経験から、私は実験や数理モデルによって研究する意味が分かっていなかった。なぜ非現実的な条件や仮定を作らないと見れないような現象をわざわざ検出するのか? 特に、実データがない状況で組まれた実験や数理モデルって何の意味があるのだろうか?と思う時もあった。(数理や実験の予測...